TRONについて
 
 かわらばん100号達成おめでとうございます。一口に100号と言っても8年余りになるのですね。この「かんたんパソコン講座」は確か第2号から連載させていただいておりますが、合間に少々サボったことがあったため、まだ95号にしかなりませんが、いつの間にか「かわらばん」の記事の中ではいちばんの古株になってしまいました。これからもよろしくお願いいたします。

 さて今月は、「TRON」についてのお話です。昔そんな題名の映画があった、と言われる方がおられるかも知れません。あるいは、初期のパソコンのベーシックコマンドにもそんなのがありました。でも今月の「TRON」は、そのどちらでも無く、1980年代に作られた日本独自のコンピュータ技術(オペレーティングシステム、ハードウェアを含む)の事です。しばらく前、NHKの「プロジェクトX」でも取り上げられましたので、ご存知の方も多いかも知れません。

 東京大学の坂村研究室を中心とし、日本のコンピュータメーカーのほとんどが参加して立ち上げられたこのTRONプロジェクトは、当時既にアメリカ主導になりかかっていたコンピュータ界の状況に危機感を持ち、日本独自のものを造りだそうとして産学協同で始められたものでした。このプロジェクトでの活動内容や成果は全て公開され、誰でもそれを使って製品を開発できるということが決められていました。

 ITRON(家電組込用)、CTRON(ネットワーク用)、BTRON(パソコンOS)と、色々なTRONが開発されましたが、特にパソコン用OSとしてのBTRONは、当時まだそれほど完成されていなかったWindowsのような高度な処理を実現しながら、高度なCPUや大きなメモリを必要としないという、素晴らしいものだったと聞きます。(すみません。筆者も使ったことがないので・・・)

 メーカー間の主導権の取り合いなど、色々の紆余曲折があったものの、1988年には試作モデルが完成し、全国の小中学校に導入されるパソコンに標準的に取り入れられるというところまで来ていました。もしこれが予定通り取り入れられていたとしたら、今の日本のパソコン状況はずいぶん違った物になっていたでしょう。

 BTRONが採用されなかった理由は、アメリカからの政治的外圧でした。対日貿易の不均衡を是正したいアメリカは、このTRONプロジェクトが、アメリカ製品の日本参入を妨げるものだとして、対日制裁を行おうとしました。よくわからないBTRONのために自動車や電化製品を買ってもらえなくなるという事態を避けるために、どこかから内部圧力があったのかどうかはわかりませんが、結局これを機会にBTRONの採用は見送られ、学校用のパソコンOSはアメリカ・マイクロソフト社のMS−DOS一辺倒となってしまいます。

 普及のタイミングを失ってしまったBTRONはすっかり影を潜め、その後は、Windows95の発売から爆発的普及、日本のパソコンはアメリカ製のOSにほとんどすべて統一されてしまったのはご存知の通りです。

 パソコンの世界ではマイナーとも呼べない存在になってしまったTRONですが、あまり人目にふれないところで、どっこいしっかりと生きています。先に書いた、家電などのマイコンに組み込まれている「ITRON」がそれで、炊飯器や洗濯機や冷蔵庫等、制御装置のついた家電の約50%でこれが使われているとのことです。こんなシステムもOSと呼ぶならば、ひょっとしたら世界でいちばん使われているOSと言えるのかも知れません。また、一時は忘れられたようになっていたパソコン用OSの「BTRON」も、世界中のあらゆる種類の漢字が使えるという「超漢字」システムが走るというメリットから、少しずつ見直される気配もあるようです。



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