9.17%の衝撃
2020年度の「ものづくり白書」によると、日本の製造業において3Dデータのみで設計を実施している企業が全体の17%しかないとのことである。また、協力企業への製造指示の54.3%がいまだに紙の図面で行われているとのこと。衝撃的な数字である。日本のものづくりの競争力低下の一端を垣間見た気がする。(その後の「ものづくり白書」には、このような調査結果の記述が見られない。2-3年でそれほど変わったとは思えないが・・)
特に中小の企業においては、いわゆるベテランの設計者がなかなか3Dの操作に馴染めず、それだけならまだしもいろいろ難癖をつけて若い人の3D化志向の邪魔をする場合がある。若い人の採用が少ないために世代交代がなかなか進んでいないことも一因かもしれない。設計ばかりでなく、それ以上に製造現場で3Dデータを扱える人は非常に少なく、それが今でも紙の図面が必要な理由の一つとなっている。
単純に設計(図面作成)だけに要する時間だけ見れば、3Dは2Dより時間がかかる。情報量が多いのだから当たり前の話である。同じアウトプットに1.5倍くらいの時間がかかるのは普通で、操作に不慣れなうちは尚更その傾向が強い。この不利を、設計の精度向上による手戻り工数の削減や、製造方法などの事前検討(コンカレント、もしくはサイマルテニアス・エンジニアリングとも言う)、加工の自動化などによる全体的な効率アップで補いかつ凌駕していくことになるはずだが、結局最終的に紙の図面で出図ということであれば、後半部分の効率化はまるで望めない。
同「ものづくり白書」のアンケート結果には、今後の競争力を高める取り組みとして、「改善の積み重ねによるコスト削減」や「高度な熟練技能を活かした、他社にはできない加工技術や作業工程の確立」が上位に挙げられているのを見ると、まだこれからも現場の「職人技」のみで対抗していこうとしているのだろうか?と不安になる。
もう20年以上も前のことになるが、中国の上海や無錫近辺の部品メーカを数多く訪問させていただいたことがある。その時に驚いたのは、これら企業への3D浸透度であった。日本の場合、手描きからまず2D-CAD(CADAMなど)が普及、その後徐々に3Dに変わっていったのだったが、中国の製造業は2Dを飛び越えて一気に3Dになったように見えた。2Dを使いこなさないうちに3Dに移行したので、かえって抵抗なくスムーズにいったのかもしれない。とにかく、訪問した企業ではほとんど例外なく若い現場技術者が3Dのデータを元に加工機械を操っていた。
それからずいぶん時間が経ったが、日本はまだ冒頭に書いたような状況、これはいったいどうしたことなのだろう?