5.「回転押し出し」に思うこと
何度も書いているが、3Dモデリングのチュートリアルでよく見られるのが、いわゆる「回転」コマンド(回転押し出し)を使ったもの。右上図のように、断面形状をそのままスケッチして軸回りにクルッと回転させて形状を作ってしまうという手法である。
例えばピストンとかプーリとかのモデリングで、ピストンリング溝や複数のベルト溝まで詳細を全部一つのスケッチで書いておいて360度回転させてハイ終わり、みたいな解説が多い。
自分の考えでは、このような解説を書く人は、おそらく本当の「設計者(デザイナー)」ではないのだろうと思っている。既に2Dの図面があって、それを出来るだけ手間をかけずに3D化する(要するに設計者ではなくモデラーの仕事)だけならそれでも良い。ただ、もし一から設計を始めるならば、本当の設計者はこんなやり方はしない。ピストンでもプーリでも、まず基準となる座標に対する直径や長さ、厚みがあり、それに機能として必要な溝を追加していくという手法を取るはず。
3Dの黎明期には、現在ある設計資産の2D図面をとにかく早く3Dに変えないといけないというニーズが高かったので、こんな手法も許されたのかもしれない。そんな風にして作られたモデルは、少し設計を変えようとすると最初のスケッチまで戻らねばならないので、手間がかかるばかりでなく、自ずと間違いも多くなる。
ただ、3Dが普及するとともに、それを使う設計者も、以前のモデルのデータを取り込んでそれを一部変更して使うというやり方が多くなって、パーツをまったく一(イチ)から設計することが少なくなってきているのかもしれない。2D-CADの普及期にも同じ事が起ったのであるが、その形状の持つ意味などはほとんど理解せずに、一部の寸法だけをストレッチして新しい部品を作る、というような事が頻繁に行われるようになった。「エンジニア」でなく「チェンジニア」と揶揄される所以である。
2Dから3Dに変わる時がチャンスだったかもしれないが、その時に上に書いたようなモデリングをされてしまっていると、永遠にそれが続く可能性もある。運良くパーツを一から設計する機会を与えられた設計者は、できればフルスケッチからの回転などは使わずに、少しくらい手間がかかっても基本形からのモデリングにトライして欲しいものである。